ワークショップセンノキレジンテーブル作品集

富山県・雨晴海岸の義経岩をモチーフに――奈良県御所市で“夕焼けの海”を描くレジンテーブル制作体験

義経岩をイメージした島がレジンの中に浮かぶ。ブルーグラデーションの海が広がる幻想的な構図。 ワークショップ
群青色の海に浮かぶ小さな義経岩。一本松の影がレジンに映り込み、まるで時間が止まったような静けさを感じさせます。

義経岩の伝説をモチーフにしたレジンアートの挑戦

富山県・雨晴海岸に残る義経伝説

富山県高岡市・雨晴海岸(あまはらしかいがん)にそびえる「義経岩(よしつねいわ)」は、平安時代末期、源義経が兄・頼朝の追討を逃れる途中、にわか雨に見舞われ、家来の弁慶たちと共にこの岩の下で雨宿りをしたと伝わる場所です。
その出来事が「雨晴」という地名の由来ともいわれ、今も地元では義経岩の上に小さな祠が建てられています。海と岩、そして一本松が織りなす風景は、まるで日本昔話の一場面のよう。
義経岩の背後には立山連峰がそびえ、晴れた日には雪を頂く山並みが日本海越しに見えるという、日本でも数少ない絶景の一つ。夕暮れ時には空が紫から群青へと変化し、岩に当たる光が黄金色に染まります。その幻想的な光景が、今回のレジンテーブル作品のテーマとなりました。

奈良県御所市のアトリエで、海と伝説を形にする

奈良県御所市のエコロキア・アトリエでは、木工とレジンを組み合わせたアートテーブル制作体験を行っています。今回参加されたのは、富山県ご出身の方。故郷の「義経岩」をイメージし、夕焼けに包まれた雨晴海岸の情景をテーブルの上で再現しようとチャレンジしています。

岩の造形には天然石とモス(苔)を使用し、一本松を象徴的に配置。そこに紫と群青のグラデーションをつけたレジンを流し込み、光と影が交錯する「夕暮れの海」を表現しました。
奈良の地で富山の伝説を形にする――距離を越えて想いを込める、そんなクラフトならではの物語がこの作品には宿っています。

制作の工程—“記憶を閉じ込める”手仕事の時間

義経岩をミニチュアで再現する

制作は、まず義経岩を模した小島づくりから始まります。流木を加工して島の形を作り、苔と小石を使って自然な岩肌を再現。松を象徴する小さな木を中心に配置することで、まるで雨晴海岸の風景をそのまま切り取ったような造形に仕上げました。

レジンテーブル制作体験で一本松を中心に岩を配置する様子。流し込み前の透明なレジンが木漏れ日のように輝く。
福井県出身の参加者が地元の「義経岩」をテーマに制作したレジンテーブル。
まずはミニチュアの岩と一本松を組み合わせて、情景のベースを整えます。

この段階では、「岩のどの角度に波が当たるか」「松の影がどこに落ちるか」など、自然の摂理を観察しながら構成します。小さなスケールでありながら、制作者はまるで風景画家のように細部まで意識を巡らせていくのです。義経岩を単なる形ではなく「物語を持つ存在」として捉える――それがこの体験の最大の魅力です。

夕焼けの海をレジンで描く

島が完成すると、次はレジンの流し込み。今回のテーマは「夕焼けの海」。群青から濃紫へのグラデーションが、海から空へと変化する光の道を表現しています。透明なレジンの中に、わずかに色を重ねることで深みが生まれ、硬化の過程で色が溶け合いながら柔らかな境界を描き出します。
作業中は、まるで波が島を包み込むようにレジンが流れ込み、松の根元や岩肌をゆっくりと覆っていきます。時間とともに固まる過程すらも美しく、まさに「自然と時間を閉じ込める」ような瞬間。

紫と群青のレジンを流し込み中のレジンテーブル。奥には一本松が浮かぶように配置されている。
透明感のあるレジンに紫と群青を重ねて、義経岩に沈む夕日の海を表現。レジンが固まる瞬間まで、色の流れを見守るのも制作体験の醍醐味です。

このレジンが硬化していく過程で、見る角度や光の当たり方によって海の色が変わるという独特の美が生まれます。それは、実際の雨晴海岸で刻々と変わる夕暮れの光景をそのまま写し取ったかのようです。

初回の濃いレジン層で雰囲気を創る

義経岩を想起させる“暗い海と刻まれた松”の構図

奈良県御所市のアトリエで行われたレジンテーブル制作体験。その第一段階として、富山県・雨晴海岸の「義経岩」をモチーフに、一本松を配した島のような構図を設えました。そして、まず流し込んだのは、紫・群青という“暗め”の色合い。夕焼けが終わり、夜の海に移ろうかというその境界を表現するための色選びです。
この段階では、岩・苔・小石・松の配列を慎重に構築したあと、レジンを注入。流し込み時は、色が島や松の影を包み込むようにゆっくりと動き、硬化に向かう時間が空間の静けさを生み出しました。レジンが固まりつつあるその瞬間こそが「風景を閉じ込める」時間なのです。
この“暗い部分”の層があるからこそ、次に重ねるオレンジ・黄色がより鮮やかに映えます。つまり、光を感じる部分を際立たせるための下地という意味合いも持たせました。

濃色レジンを注ぐ際の技術ポイント

レジンの注入には、注意すべき技術的なポイントがあります。例えば、多色グラデーションをきれいに仕上げるためには、“色の混ざり具合”“注入タイミング”“温度・硬化速度”などが重要で「層を重ねる前に各色を適切な状態で硬化させる」「色の境界を意図的に操作する」などの注意点があります。

レジンの水面に浮かぶように一本松が立ち、岩肌にはコケと砂利がリアルに再現されている。
濃淡のあるレジンの水面に、小さな島のように佇む一本松。コケや石を使って、自然の息づかいをそのまま閉じ込めました。

今回は、暗めの紫・群青を斜めに流したあと、完全に硬化したら次の明るめの色を重ねるために“若干硬化時間をコントロール”しました。この“待つ時間”と“流す量”が作品の印象を左右するので、参加者と講師が一緒に確認を重ねながら作業を進めました。

次工程:オレンジ・黄色で“光の帰還”を描く

暗→明へのグラデーションで“夕焼けの余韻”を演出

次に控えているのは、“暗い夕景”から“光が甦る海面”へと変化する部分。硬化した暗色層の上に、オレンジ・黄色をレジンに混ぜて流し込むことで、夕焼けの残照が海面を染める瞬間を表現します。
注入するオレンジ・黄色のレジンは、前層の色と自然に溶け込むよう、注ぐ量・位置・厚みを調整します。例えば、島(松・岩)の縁に近づけて少量流し込み、“光が波打つように”レジンが広がる様子を演出。光の帯が島を縁取り、暗い海面に“光の筋”が浮かび上がる設計です。
この流し込み時の動きが、完成後の写真撮影で“波の揺らぎ”や“光の反射”として際立ちます。まさに、暗い背景があるからこそ、オレンジ・黄色の輝きが“生きる”のです。

技術&素材面での留意点

この工程でも、技術的なポイントがあります。例えば、前層が完全に硬化していないと、新しいレジンが溶け込んでしまい、グラデーションが曖昧になることがあります。専門ガイドでは「次の層を注ぐ前には、表面がタック(軽く触れてもくっつかない状態)になるまで待つ」ことが推奨されています。

ブルーと紫のレジン層が固まり始めたレジンテーブル。義経岩の一本松が印象的に映える。
奈良県御所市で行われたレジンテーブル制作体験。参加者の地元・福井県の風景をモチーフに、夕暮れの海をイメージした作品が完成に近づいています。

また、色を鮮やかに見せるためには、透明度の高いクリアレジンと顔料/染料のバランスが大切。黄色・オレンジなど明るめの色は、少量でも視覚的に強く働くため、顔料の過剰投入は避け、層ごとのコントラストを意識しました。
さらに、島に影を落とす“影色”をあらかじめ想定し、暗色層の端が松や岩の影になるように配置しておくことで、光の層が“浮かび上がる”演出が可能になります。こうしたディテールが、完成後の“夕焼けの海”をリアルに感じさせるポイントです。

物語を紡ぐテーブルという名の風景

記憶に宿った風景を“連続性”として作品に

このレジンテーブル制作において、参加者の故郷・富山県高岡市の雨晴海岸が背景にあります。そしてその風景を奈良県御所市のワークショップで再現するという、時間と場所を超えた挑戦です。暗から明へというグラデーションは、まさに“記憶が光を取り戻す瞬間”とも言えます。
家具としてのテーブルが“風景=記憶の断片”を内包するからこそ、日常の中でふと見た時に、かつての海と夕焼けを思い出してしまうのです。モチーフを義経岩としたことで、自然・伝説・個人の記憶が交錯する1点作品が生まれました。

エコロキアのものづくり理念とこの工程の意味

エコロキアでは、「素材と物語をつなぎ、不便を楽しむ」というものづくりを掲げています。この作品でも、木材・苔・小石・流木といった自然素材、そしてレジンという現代素材を組み合わせ、“暗い夕景”→“光の波”というストーリーをレジンという媒体で描きました。
手を動かし、色を注ぎ、時間を待つ――そんなプロセスそのものが作品の一部であり、参加者自身の記憶や想いを閉じ込める儀式ともいえます。暗い海から光が戻る――というグラデーションの構造は、まるで人生の起伏を映すようで、見た目以上に深い意味を持っています。

暗さの先にある光を閉じ込めるレジンテーブル

暗い紫・群青の海に始まり、次にオレンジ・黄色の光が波間を走る――このテーブルは、ただ美しいだけでなく“時間と記憶と風景”を表現した作品です。
奈良県御所市という地で、富山県・雨晴海岸の義経岩の物語をモチーフにしたこの制作体験は、参加者の故郷と、手を動かした瞬間との懸け橋となりました。次の工程で注ぐオレンジ・黄色のレジンが、暗い層に“希望の光”を灯します。
もし、あなたが「自分の風景を形にしたい」「暗い部分も光となって輝く瞬間を閉じ込めたい」と思うなら、私たちのレジンテーブル制作体験はその場です。次の光を、一緒に流し込みませんか?

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